窓の外では、真夏の太陽が木々の緑と白い砂浜を浮き彫りにし、青さの濃い空が、果てまで続くように広がっていた。
そして、海もまた輝きながら、なにものかに満たされてそこにあった。


それは永久に続く音楽であり、一瞬のうちに終始する跳躍でもあったのだ。


彼はそんな海辺の大きな病院で、死の床にあった。
身体は既に衰弱していたが、精神はむしろ健在だった。
かつて彼は、人とはは覚悟を決めれば従容と死を受け入れることができるものだと思っていた。


しかしそれは完全に誤りだった。それは、死に直面していない、弛緩した精神状態の作り出した幻影だった。


「生きたい!生きたい!生きるためなら何でもする!お願いだ!」
彼は苦悶した。そして病苦と呼ばれるものの成分を初めて理解した。それはほとんどすべて死への恐怖心であり、なんともし難い死への嫌悪感だったのだ。


そこには「無」とか「存在」とかいう観念の介在する余地はなかった。
ただひたすら全身全霊で、死にたくないということしかなかったから。
神を呪い、神に祈った。


そうして彼は死んだ。彼の祈りは何ほどの意味も成さなかった。長い夢の終わりを迎えたのである。


輝く真夏の海は、いつまでも鳴り止むことはなかった。