会者定離

いつも思い出しながら、いや、思い出そうとして思い出せないまま、不相応な涼風が、皮一枚だけを冷やして過ぎてゆく。


煙のように薄く薄く、しかし連綿と続いていたのは何だったのだろうか。


夜の月を観て死の静かさを思う。然り。しかし昼の月を観て思うのは死などではない。死よりもはるかに静かなものである。それは私に戦慄を起こさせるのではなく、むしろ、とこしなえに懐かしい。


薄く薄くしかし連綿と続くものは、いつしか結晶化を目指す。結晶のような存在、月光のような存在、青い炎のような存在。結晶の中には虚無の影さえなく、ただ透明に近づこうとしているかのようである。


やがて限りあるそれらが、確かに永遠に向き合って回る。


この風この光この空気。
結晶化したこれらは、きっといつかどこかで見た光景なのだ。生きながらにして輪廻に投げ込まれた瞬間を私はいま生きており、そしてその瞬間は続けられようとしている。
そしていつもそには誰かがいた。