私は海を抱きしめていたい。


日曜日に発作的に海へ行きたくなり、片道2時間強、車を走らせた。
海辺に着くと、もう季節はずれにもかかわらず、休日の午後を海で過ごそうとする人々で賑やかだった。しかし、さすがに泳ごうとする人は見あたらなかった。



海を眺めていると、容赦なく潮風が肺に入ってくる。潮の匂いが鼻を撲つ。目の前には日常生活では目にすることのない、広大な空間の延長がぽっかりと広がっていた。
いつも海に来ると思うのだが、海というのは不思議なものだ。まるで一個の巨大な生き物のようで、それが反復運動を繰り返しながら眼前の殆どすべてを埋め尽くすという光景が、海のない土地で育った私には一種異様な感じがする。


海の青と波の白のコントラストが、永遠の反復を繰り返す。


できることならしばらくの間、此界のすべてを忘れて、この辺の民宿にでも逗留し、毎日、一日中海を眺めていられたら、と思った。


私には別段、これといった夢も希望もないのだが、仮にそんなものがあるとすれば、どこか南の無人島あたりで、一日中海を眺める生活を送ってみたい気もする。


きっとそんな生活には2、3日ですぐ飽きるだろうけど、やがて、飽きることにも飽きて、いつか、まるで海の一部にでもなったように、寄せては返す波の一部にでもなったように、来る日も来る日も延々と反復する日を生きて、生きて、生き続けて、生き尽くして、そうしてついに身体が朽ち果てても、繰り返されるその反復だけが残照として青さに白く残る日を妄想した。