天人五衰
天上界の住人を、天人という。
天上界は六道世界のうち最上界であるゆえ、そこは極めて自由で理想的な世界である。天人のすべての欲望は満たされ、空を自由に飛び回ることができる。天人の身体は常に清浄で光り輝き、その生命は幾百万年の長寿を誇る。
しかし、天上界の住人も、やがては死ぬ。
天人が死に至るまでの五相の過程を、天人五衰という。
- 衣服垢穢 天人の衣服に穢れが付着するようになる。
- 頭上華萎 天人の頭上にある天冠の花が萎れる。
- 腋下汗流 脇の下から汗が流れ出る。
- 身体臭穢 身体が汚れて悪臭を発する。
- 不楽本座 自分のいる場所に楽しみを見出せないようになる。
永い間、自由を謳歌してきた天人が、最期の最期になって上記の五相を呈するようになる。
その苦しみは想像を絶する。人間には決して味わうことができない苦しみである。地獄界の住人が味わう苦しみの十六倍もの苦しみだという。