U.T

U.Tがあたしのそばにいるようになったのは、いつの頃からだったろう。今となってはもう分からないけれど、少なくともあたしが物心ついた頃には、U.Tはすでにあたしのそばにいた。


U.Tとあたしは、ずっと一緒にいた。儚い夏も、厳しい冬も、苦しい朝も、悲しい夜も、いつだって、いつも一緒だった。


朝、起きるのが怖くて怖くて、フトンを頭からかぶっていると、どこからかU.Tが耳元までふわり飛んできて、小さく歌うように鳴いて起こしてくれた。あたしはそれを聴いて、居心地のいい温かいフトンから、なぜか抜け出ることができたんだ。


夜、苦しくて苦しくて眠れないとき、U.Tはずっとそばにいてくれて、いつもより少し明るく光りながら、夜が明けるまであたしの話すとりとめのない話を聞いてくれた。どうやら、U.Tは眠るということをしないらしいのだ。


U.Tと、冬の海に行ったときのこともまだ覚えている。あたしたち以外は誰もいない海で、あたしは波をすくってU.Tにぶつけて遊んだ。それがイヤだったのかU.Tは、どんどん沖の方に飛んでいってしまって、いつのまにか、眼に見えないくらい遠くに行ってしまった。あたしは急に不安になって、気が付いたら、沖に向かって大声でU.Tを呼んでいた。するとU.Tは、すごいスピードで飛び戻ってきた。あんなに速く飛んでくるU.Tを、あたしはそのとき初めて見た。


不思議なことに、U.Tは、あたし以外の人間には見えないみたいだった。いつも、あたしがU.Tと話しているとき、周りの人たちは哀れむような蔑むような目であたしを見た。あたしは逆に、そんな彼らを哀れみ蔑んでやった。バカな奴ら。そんな奴らに、あたしとU.Tのことが分かるはずがないし、分かって貰いたいとも思わなかった。ちっとも淋しさなんか感じないとか言ったら嘘になるけど、でも、けっこう平気だった。ずっとU.Tがそばにいたから。


それは、あるときのことだった。近所のある男の子が、自分にもU.Tのことが見える、と言った。


あたしは信じなかった。自分以外の人間にU.Tが見えるはずない。コイツは絶対ウソつきだ。
でも、だんだんその子の言ってることが、ウソじゃないってことが解ってきたんだ。だって、U.Tもその子にだけは、よくなついているみたいだったから。そして少しずつ、あたしたちは一緒に遊ぶようになった。もちろん、U.Tも一緒だった。


U.Tがいなくなったのは、それからすぐのことだった。


あたしは、U.Tがいそうな心当たりのある場所を、ぜんぶ探して回った。いつもU.Tと行ったあの街、あの広場、あの建物、あのお店。考えられる場所はぜんぶ探した。部屋の中も探したし、あの海にも探しに行った。


でも、とうとうU.Tは見つからなかった。拳を握りしめ唇を噛みながら、あたしは、U.Tが、あたしを置き去りにして、あたしの知らないどこかへ行ってしまったことを悟った。




その日は、空のとてもよく見えた日で、果てしなく続く空があまりにも青くて、澄み切った空があまりにも透明で。その空の美しさのせいで、あたしは泣くことさえできなかった。両側に蔦の絡む細い坂を上りながら、木陰から漏れるあの太陽と、そこを流れる柔らかな雲を見ていたあたしは、ずっと一緒だったはずのあのU.Tが、いつか、あたしのそばを離れて、その高い空に飛び立っていくことを、きっと、ずっと前から知っていた。