俺はセイウチ

俺はあいつなんだ。お前があいつであるように、お前が俺であるように。つまり俺たちはみんな同じなんだ。
見ろよ、豚どもが銃を向けられて跳び惑ってるぜ。逃げ惑う代わりに。


私は泣いているのです。


コーンフレークの上に座ってさ、迎えのバンを待ってるんだ。
社名入りのTシャツ着て、愚かな血の火曜日を。
おまえ。悪ガキだろう?顔がどんどん伸びていってるぜ。
俺はエッグマン。あいつらもエッグマン。I am the walrus.
俺はセイウチ。
ななななんっていい仕事だろう。


市警のお巡りさんが、小さな可愛いお巡りさんの上に乗って行進だ。
見ろよ、あいつら駆けずり回ってるぜ。ルーシーがブッ飛ぶみたいに。


私は泣いているのです。


俺は、泣いている。俺は泣いているんだ。

黄色いカスタードが、死んだ犬の眼から滴り落ちる。



  "I Am The Walrus"
  (John Lennon, Paul McCartney)

どこからか、近所の主婦の甲高い声が聴こえた。やがて配達の軽トラックのエンジン音が去来し、そして遠くを走る幹線道路からは、絶え間ない海鳴りのような喧噪が微かに聴こえる。それは、もう何十年も前から繰り返されてきた光景に違いなかった。ただ私が知らなかっただけなのだ。私の知らないうちに、ここではこんな毎日が来る日も来る日も繰り返されて、これからも繰り返されるのだ。

ここには時間の経過がない。人称も、意思も、希望も、憎しみさえも。


ただあるのは、嘘のように青く高い空であり、アスファルトに斜めから照り返す光線だけだ。ファミレスの看板が長い影を伸ばし、枯れた蔓草がフェンスの金網に干されて囁く。
どこまでも伸びてゆく冷たい光線と鋭い青さの下では、私も彼らもただの光景であり、影絵であり、空虚であり、幻影でしかありえない。
そして、私と彼らはただ見つめる。見つめ続ける。そうすることしかできない。ただ踊る。踊り続ける。笑いながら、泣きながら。